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東京地方裁判所八王子支部 昭和56年(わ)1120号 判決 1982年8月25日

主文

被告人を懲役一年六月以上三年以下に処する。

未決勾留日数中九〇日を右刑に算入する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(犯行に至る経緯)

被告人は、昭和五一年に東京都日野市立日野第四小学校(以下単に四小ということがある。)を卒業して同市立日野第一中学校(同様に一中ということがある。)に入学し、同五四年に同校を卒業して会社員として働いていた者、A(以下単にAということがある。後述のB、C、E及びFについても同様である。)及びBは、いずれも同五二年に一中に入学し、同五五年に同校を卒業した者、Cは、同五三年に四小を卒業して一中に入学し、同五六年に同校を卒業してガソリンスタンドの従業員として働いていた者、E及びFは、いずれも同五四年に四小を卒業して一中に入学し、本件当時、同校三年に在学していた者であり、被告人とEは、その父親同士が友人であつたため、幼い時からの知り合いであり、被告人とC、EとFは、いずれも、四小在学中からの遊び友達であつた。被告人は、かねてから右A、C、E及びFほか十数名の者とともに、一中の同級生、先輩、後輩というつながりを利用して集団を形成し、「夜組」と称して、夜間外出しては国鉄日野駅付近に集団でたむろして遊んでいたが、右集団内においては、後輩は先輩の意向に従うこととされ、反抗的な後輩に対しリンチを加える者もあり、また、時には、シンナーの吸引、オートバイの盗み、無免許運転などをする者も居た。被告人は、昭和五四年七月ころ自動二輪車の運転免許を取得し、同年一〇月ころ、右集団中の被告人と同じ卒業年次の者達とともに自らその中心の一員となつて、所謂暴走族集団である「東京CRSルート二〇カークラブ日野支部」(以下単に「ルート二〇」ということがある。)を結成し、順次、A、Cら後輩も暴走グループに加わり、日野駅近辺に集団で集まつたり、神奈川県内の暴走族の集会に参加するようになるとともに、「ルート二〇」が右集団の名称とみなされるようになつた。ところで、右集団内において、被告人の一年後輩にあたるAと同じ卒業年次の者達は、「夜組」へ顔を出すことも少なく、被告人ら先輩グループとの付き合いも悪かつたため、その反感を買つていたところ、昭和五五年の夏ころに至り、全員が右集団から離れ、その際、今後はオートバイにも乗らない、まじめになるなどの約束をしていたが、その後間もなくAを中心に新たなグループを形成し、集団でオートバイを運転したり、多数の仲間をAの自宅に集めるなどして、被告人らの「ルート二〇」を凌ぐ勢いを示すようになつた。このような状況下で、前記被告人らの「夜組」、「ルート二〇」のグループにおいては、Aらのグループに反感を抱き、同年一一月ころから、次第に「Aらのグループの単車を潰してしまおう。」などという話が出るようになり、同年一二月三一日には、Fが右グループの一員に暴行を受けたことを聞き知るや右反感を爆発させ、被告人、Cら数名が深夜、Aを呼び出して暴力を振るい、同人を負傷させ、これにより、被告人らが検挙され、観護措置決定を受けたうえ、被告人は保護観察に付されたほか慰藉料などを支払わされ、更に、その後、被告人らが謹慎しているにもかかわらず、Aのグループが被告人らの目の前でも、平然とオートバイを走らせるようになつたことから、右グループに対する反感をいつそう募らせていた。

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和五六年五月一五日ころの午後一一時ころ、東京都日野市日野八三六番地二二笠松方付近の通称「ドブ川」の橋の上で、Cほか一名と会つた際、CからBが依然としてAと付き合つている模様であると聞き、その約一か月前に、被告人が直接Bから聞いていた、同人がAとは全然付き合つていないとの話と違つていることに立腹し、ここに、Bを含むAらのグループのオートバイを焼燬するなどして破壊しようと企て、そのころ、その場所で、Cに対し、「Aらの単車を潰せ。」「燃やせ。」「俺が許可する。」「Bの単車でもかまわない。」「皆に言つておけ。」などと言い、Cもこれを承諾し、同人は、その後、同日及び翌一六日の二度にわたり、同市下田三一八番地一ベラ美容室こと田中浜子方付近路上ほか一か所において、Fほか計二名の者に対し、被告人の右文言を伝え、Fは、いずれもこれを承諾し、更に、同月一九日、同市日野二六一四番地一中グランド付近路上において、F及びEに対し、被告人の前記文言を伝えた上、「早くやれ」と言い、右両名は、拒めばリンチを受ける虞れもあると考えて、いずれもこれを承諾し、同月二三日夜、同市日野四七番地一所在の第一日野万児童遊園地内において、Bのオートバイのガソリンタンクからガソリンを流出させ、これに点火して右オートバイを焼燬しようと謀議し、ここに、被告人は、C、F及びEとB所有の自動二輪車を焼燬しようと順次共謀の上、同月二六日午前一時四〇分ころ、FとEがそれぞれライターを携えて、同市下田三九八番地の二所在の川久保英治方南側の庭に赴き、同所において、Fが右川久保方一階応接間南側のガラス窓から約三〇センチメートル離れた軒下に置かれた右B所有の自動二輪車(時価約四一万円相当)のガソリンタンクのコツクレバーをプレーにしたうえ、ガソリンゴムホースを外し、同タンク内からガソリンを流出させてこれに所携のライターの火で点火し、右自動二輪車に火を放ち、よつて、同車のサドルシートなどを順次炎上させて同車を焼燬し、前記川久保英次方家屋に延焼させて、公共の危険を生ぜしめたものである。

(証拠の標目)(省略)

(法令の適用)

被告人の判示所為は、刑法六〇条、一一〇条一項に該当するので、その所定刑期の範囲内で、少年法五二条一項により、被告人を懲役一年六月以上三年以下に処し、刑法二一条により未決勾留日数のうち九〇日を右の刑に算入し、訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項本文により全部これを被告人に負担させることとする。

よつて、主文のとおり判決する。

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